フランス人はデモが好き? 黄色いベスト運動を税金の視点で読み解く

Rinka

今日は黄色いベスト運動について軽く纏めてみるよ。

Meme

凛香、君はもっと書くべきことがあると思うのだけど。メメント経理に相応しい題材は世の中に溢れているよ。

Rinka

それはごもっとも。でも、黄色いベストは燃料税の引き上げも要因の1つだし、税金との関係も深いから、学びもあるかなーと。他国の税金事情を知ることも大事じゃない?

Meme

了解。お手並み拝見といこうじゃないか。

この記事を書いた人
  • 現役経理女子
  • 税理士試験官報合格
  • 日商簿記検定1級取得
  • メメント経理 作成中
漆原凛香
です

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黄色いベストとは

黄色いベスト les gilets jaunes

黄色いベスト運動と言われたら、目に優しくない蛍光イエローのベストが記憶に蘇ってくる人も多いと思う。ベストというか、蛍光色も相まってビブスのようにも見える。

この服のことをフランスではジレジョーヌと言う。ジレはベスト、ジョーヌは黄色い。フランス語は後ろから修飾するので、そのまま黄色いベストとなる。

東京都知事選で小池百合子さんに「緑のものを身につけて応援に来てください!」と言われて慌ててタンスから緑の何かを探した東京都民とは違って、彼らの多くは黄色いベストを探す必要はなかった。

持っているベストを取り出して羽織るだけでよかった。

フランスでは車の故障時に、視覚認識性の高い蛍光色のベストを着用して修理することになっている。それに備えてベストの車載が義務付けられている。そんなに高いものでもなく、5ユーロくらいで買える。

安くて誰もが持っていそうな黄色いベストが運動のシンボルとなったのは、この運動の発端が車を運転する人にあったことを考えれば、必然とは言わないまでも、蓋然性があったと言える。

蛇足だけれど、ジレジョーヌに似た言葉と言えば、やっぱりマイヨジョーヌ。

ツールドフランスで1位の選手に贈られる黄色いジャージで、ツールドフランスのレースで必ず目にする。

最終ゴールのパリに帰ってきてからのプレゼントではなく、その時点で総合タイム1位の人が着用しているので、レース中も誰かが着ていることになるからね。

個人的にはこっちの黄色の色味の方が好き。

黄色いベスト運動 le mouvement des gilets jaunes

ジレジョーヌは安全のために着る黄色いベストにすぎないけれど、いつしかジレジョーヌと言えばただの蛍光ベストを指すのではなく、運動自体を表す言葉になっていた。

日本語でいきなり「黄色いベスト」と言われても「は?」となってしまうので、後ろに”運動”とつけるか、カギカッコで括るか、”フランスの”と補うか、何らかしないと収まりが悪いけれど、フランスでジレジョーヌと言ってわからない人はいない。

それだけ影響は大きくなっていた。

いつの話?

フランス革命はいつ?と聞かれたら、期間で答えることも可能だけど、ピンポイントで1789年7月14日と回答する人の方が多いと思う。

この日はバスティーユ監獄が襲撃をされた日。別にこの日1日だけの革命だったわけではないけれど、シンボリックな日として異論はない。

では、黄色いベスト運動はいつ?と聞かれたら、2018年11月17日土曜日ということになる。

2018年は燃料価格が高騰した年だった。そんな中、燃料税の増税に耐えかねた人々が、署名であったり、Facebook上での呼びかけであったり、ネット上での抗議ビデオの拡散であったり、何とか事態の打開を試みる。

徐々に熱は高まっていき、そしてついに具体的な動きとなって現れた。

今度の土曜にロンポワンを封鎖しよう!ネット上でのその呼びかけに多くの人が賛同した。

ロンポワンは環状交差点と訳される。英語だとラウンドアバウト。シャンゼリゼの凱旋門の下を思い浮かべるとどのようなものか想像がつきやすいかな。

あのグルグル回るような交差点がフランスにはたくさんあって、そこにバリケードを作って交通の流れを止めることで、抗議活動を行なった。

日本ではデモやストが行われることが稀なので、そんなことをする人たちは一人残らず過激派と見られがちだけれど、フランスでは割と普通にある。権利の主張や抗議の手段として認知されている。

黄色いベスト運動の要求

燃料税の引き下げ

燃料価格の上昇は、公共交通網が張り巡らされている都市部の人にだって楽しい話ではないけれど、地方の人に比べればその影響は限定的になる。

田舎に行けば行くほど移動手段はほぼ車となり、燃料税の増税は死活問題となる。

給料日前にお財布を見て残金が殆どなかったら、ガソリンを買うか、パンを買うか、どちらを選べば良いのだろう。そもそもそのパンを買いに行く時ですら、車を使わなくてはならないくらいパン屋が近くにない。

増税は環境保護という名の元に行なわれ、世界的な流れに乗ったものでもある。

政府は燃料税増税の反対に対し「地球温暖化問題はどうするのか。異常気象をこのまま放っておいてよいのか」そういう反論をした。

Rinka

黄色いベストの人たちは、別にエコへの取り組みに反対しているわけではないので、もしそう映ってしまうなら、ちょっとかわいそうかもしれない。

Meme

破壊行為に走った過激派もいるけれど、多くの人は今日どうやって生きていくのかという叫びを形にしたにすぎないだろうね。

連帯富裕税の復活 ISF impot solidarite sur la fortune

フランスでは2018年まで、連帯富裕税と呼ばれる税制度があった。

100万ユーロを超えるような資産を持っている人に課される累進課税で、その名のとおり富裕層が負担する税金。

富裕層からすると不平等に感じられ迷惑極まりないけれど、格差の是正という観点からすれば、それなりに公平な制度。

完全な競争社会を目指すのであれば、公共サービスも不要であるし、国家もその存在意義を失う。

フランソワ・ミッテランが導入した連帯富裕税をエマニュエル・マクロンは廃止に踏み切った。そして、もちろん低所得者層の反発をくらう形となった。

反発されただけで、今のところ復活はしてないけどね。

Rinka

お金持ちにはたくさん納付してほしいけれど、タックスヘイブンと同じことが起きちゃうと思うとジレンマだよね。

Meme

税金対策に資産が海外に流出するということだね。資産税はグローバルで管理しないとって言ってたのはピケティだったかな。

Rinka

もう、そろそろ地球規模の国家的な組織がないと立ち行かないのかもね。グローバル化による国家の限界は結構深刻。

そのほか

税金という観点だと上記2点になるかな。

そのほかには、最低賃金の引き上げとか、雇用の創出とか、付随して大統領 エマニュエル・マクロンの退任とか。

税金視点で燃料税の増税をピックアップしたけれど、燃料価格の値上がり自体を何とかしてと言うのもこの運動の主張のひとつ。

と言うか、燃料価格問題がこの運動のメインテーマだけどね。

運動の参加者の特徴

この運動の特色として、リーダーが不在であることと労働組合が中心となっていないことがあげられる。

非正規雇用者や年金生活者など労働組合を通じて意見を伝えることができない人たちが多く参加した。他にもシングルマザーなども多く同調した。

第1回のデモは地中奥深くに溜まった熱が爆発するように30万人近くの人を集めた。その後も毎週土曜日に人々は集まり、政府も何らかの対策が必要だと感じ始めた。

だが、誰と交渉したら良いのか。リーダーもいない。労働組合もその中心にない。動員は徐々に少なくはなっていくものの、その反面、過激にもなっていく。

政府も何らか対策し始めないと思ったのか、遂に全国大討論会 le Grand débat national を行うことを決めた。

大討論会のために市民が自由に不満・要求を記載する陳情ノート Cahier de doléance が各地に設置された。

やっと、政府が国民の不満の声を聞こうという姿勢を見せた。

時をほぼ同じくしてマクロンが国民に宛てた手紙には、税金、国の組織、エコロジー、市民権という核となる4つのテーマが掲げられ、大討論会への参加を促し、共に解決策を見つけることを呼びかけた。

また、討論会はさまざまな地域で開催されることが約束された。インターネットでの参加も可能なところに時代を感じる。

ロンポワンの最初の封鎖から約2ヶ月経った2019年1月に大討論会が始まり、3月には各地の意見がまとめられた。

終着

運動の始まりは分かりづらいものだけれど、終わりとなるともっとわかりにくい。細々と続ける人がいるからね。

大討論会やエマニュエル・マクロンの手紙や全国行脚など、政府も多少の歩み寄りを見せたこともあり、そして何より運動に疲れてきたこともあり、少しづつ人々は黄色いベスト運動から離れていった。

2020年にはCovid-19 コロナウイルスの大流行があった。この頃に動員数は減っていたものの、逆にそんな時だからこそなのか、ウイルスは運動の沈静化に直接的には関与しなかった。

殆ど人が集まらなくなったのは2020年後半になってからとなる。

それから2年、2022年になると年金問題のデモが高まりを見せてきた。

気がつくとデモしてるフランス人を尊敬するよ。

マクロン政権は2017年に第1期を開始し、2018年に黄色いベストがあり、2022年に第2期を開始し、年金のデモという流れになる。

日本でも富裕層と貧困層の二極化が進んできているけれど、フランスは日本よりもずっとその差は激しい。

格差先進国から何を見出すことができるだろうか。

Meme

何か格好良く纏めた風だけど、匙を投げたよね。

Rinka

どうしたらいいかわからないのが本音かな。持たざる者が大逆転をすることはほぼないので、格差は是正しないといけないとは思ってるけど…まずはピケティでも読んで勉強しよう!

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この記事を書いた人

経理女子。税理士有資格者。日商簿記1級取得。
年間の登録料の支払いに恐れをなして、税理士にはなれずにいる。多分、一生ならない。
どこからともなく現れたネコのような生き物メメにそそのかされて、経理の仕事に役立つ『メメント経理』の作成を始める。

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